ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

時雨月の音27

27 Masaki Rain 仕事が終わって会社の上司から仕事の伝言を預かる。 切った電話を見て目が点になった。 一個前の着信…和くんになってる。 しかも、少し話してる? 通話時間が表示されていて、深酒した事を後悔した。 朝、起きた時、まだまだ酒が残ってた。 …

時雨月の音 26

26 Masato Rain- 朝の電話に気づいたのは偶然仕事が早朝撮影だったから。 じゃなかったら、あの寂しい子猫ちゃんの電話をとる事はなかっただろう。 雅紀は大して飲めない酒に疲れてぐっすりだった。 隣りで喋ってたって気づかなかった。 俺をビンタした強気…

時雨月の音25

25 高台からみたオレンジ色の空… ピンクになるのを見せたいって…雅斗は微笑んで言った。 それは約束じゃないけど、何故だか叶えたい気持ちが膨らんだ。 「俺、こっち。じゃ、またな」 十字路の交差点まで歩いて、雅斗はヒラっと俺に手を振った。 「え?ぁっ…

時雨月の音 24

24 陽が沈んで、風が吹いて、景色が変わる。 髪が揺れて、頬を撫でて、身体の距離が縮まる。 交差した顔はゆっくり離れて、鼻先が触れ合う距離で止まる。 「和…」 あぁ…今その呼び方は、卑怯だよ。 俺はその声にもう一度名前を呼ばれるのを待っていたんだか…

時雨月の音 23

23 コンビニの袋は何故か雅斗がぶら下げていた。 雨は止んでいて、さしてきた傘が邪魔になる。 雅斗の髪…少し濡れてたな。 そんな雅斗は、俺がどこへ帰るとも知れないのに、ズンズン前を歩いて行ってしまう。 偶然出会っただけなのに、なんでこんな事になっ…

時雨月の音 22

22 さよならと怒鳴りつけてやったのは雅斗になんだけど…雅紀の顔がよぎって、相葉さんの顔が苦笑いをする。 くたびれたクマのぬいぐるみはもう おまえの匂いなんてしない。 それなのに…あの頃はくすまず、鮮明で、心に優しくて、最悪だ。 雅紀を許せない。 …

時雨月の音 21

21 マンションに戻って来た。 やっぱり大野さんの家より、落ち着いている自分が居た。 リビングの隅に置かれた写真立てを手にする。 俺の肩を抱いて…クシャッと笑う笑顔。 どうして…同じ姿で現れたの? どうして? 兄弟じゃなくなれば良かったの? どうして…

時雨月の音20

20 Masaki Rain 付き合っているわけじゃない。 告白した訳でもない。 身体の関係から始まって…出会えばキスをせがんでくる。 可愛くて、儚くて、寂しい人。 名刺を渡すのが、精一杯だった。 あの不安定な状態は…何が関係しているのか…。気になる事はそれこそ…

時雨月の音19

19 明け方までの勤務がこんなに長く感じたのは初めてだった。 いつもならただ、ボンヤリしていれば朝は来た。 ボンヤリ…出来ずにグズグズしていた。 片付けをしながら潤くんが呟いた。 「ニノ…あの人と付き合うの?」 「え?…ぁ…そんな事…考えてなかった」 …

時雨月の音 18

18 『じゃ、そろそろ帰るね。』 四杯目を飲み干して相葉さんは席を立った。 『自惚じゃないと良いんだけど…そんな顔しないで。』 俺は目が潤むのを感じて唇を噛み締めていた。 スーツのポケットから名刺を取り出した相葉さんは、俺にそれを手渡した。 『1番…

時雨月の音17

17 潤くんは1人呑みのお客さんに言った。 「今日、飲み過ぎじゃない?翔さん酔っぱらったらずっと髪かきあげるよね」 「ハハ、よく見てんなぁ。確かにぃ…今日はちょっと酔ったかも」 潤くんはウイスキーグラスに残るお酒を下げた。 「俺の奢りでいいからもう…

時雨月の音 16

16 「なぁ…アレ…昨日のビンタの奴だろ?」 潤くんが肘で俺を突いてくる。 俺はグラスを磨きながら 「ふふ…別人。」 と呟くと、潤くんはまん丸に開いた目で驚いて見せた。 「うっそ!えぇ?!嘘だぁ!」 「双子なんだよ。そっくりだよね…昨日のは弟。今日のは…

時雨月の音15

15 Masaki Rain 朝、ベッドで目を覚ます。 隣りには雅斗がスヤスヤ寝息をたてていた。 キングサイズのベッドで俺に背を向けて眠る雅斗の髪を撫でた。 もう良い年なのにちっとも成長しない自分達に呆れながらだ。 俺たちは昔、酷い虐待を受けて育った。 結局…

時雨月の音 14

14 大野さんと一緒にマンションを出た。 日が暮れた秋の入り口… ひぐらしがまだ鳴いている。 「じゃ、俺はこっちだから。ちゃんと食えよ」 「分かってますよ。じゃ」 軽く手を上げて別れた。 だんだんひぐらしの鳴き声も聞こえない喧騒に埋もれる。 駅の裏は…

時雨月の音 13

13 夕方、大野さんの腕をすり抜けてキッチンに入った。 黒い大きな冷蔵庫を開くと水のペットボトルが何本か並んでいて、そのうちの一つを取り出して蓋を捻った。 ベッドに入った時に降り出した雨は上がっている。 一睡も出来なかった。 窓ガラスを流れる雨の…

時雨月の音 12

12 約束通り、大野さんはハンバーグ弁当を頼んでくれた。 広いリビングで、床に胡座をかきながら2人で食べた。 それから、一緒にお風呂に入って、髪を洗って貰って…ベッドで一緒に寝た。 勿論…何もないまま。 俺は大野さんの抱き枕みたいになりながら、冴え…

時雨月の音 11

11 「ハンバーグ食べたいです」 「…ん?…わぁ〜ったよ。Uber ○ーツでもなんでも頼みゃ良いだろ」 「んふふ…じゃ、お願いしますね」 手を引かれながら俺は俯いたまま笑った。 大野さんの家はparadoxから少し離れた場所にあるマンションだった。 中は広くて、…

時雨月の音 10

10 雅紀…雅斗…双子… 仕事が済んだ明け方。結局あれから、頭は回らないままだった。 雅紀にソックリな奴がいっぺんに2人も現れて正直パニックもいいところだ。 あんなに何年も見たかった笑顔がすぐ側にあった。あんなに欲しかった温もりのある腕がすぐ…側に。…

時雨月の音 9

9 Masaki Rain 深夜を回った頃だった。 玄関が開く音、靴を脱ぎ捨て、鍵をシューズラックの上に放り投げる。 ジャラジャラ付けたアクセサリーが繋がれた犬みたいに音を鳴らしてリビングに近づく。 手前のキッチンに入り冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を直…

時雨月の音 8

8 店内の薄暗い照明の中、男女のカップルが密着し合いながら愛を語り合う。 滑稽な姿に映るようになったのはいつからだろう。 俺にも、あんな風に愛しい瞬間は あったはずなのに。 トンと肩に手がかかって先輩バーテンダーの潤くんが俺を覗き込んだ。 「顔色…

時雨月の音 7

7 「おはようございまぁ〜す」 ダラしない首回りが伸びたようなロンTに緩々のパンツ。まるで寝巻き姿のような私服で暗がりの裏口を開く。 ビルの地下にあるBAR、paradox。 俺の勤務先だ。 頭をボリボリ掻きながらタイムカードを機械に差し込む。 ジジっと音…

時雨月の音6

6 兄の雅紀が交通事故で亡くなって以来、家族の形がみるみる崩壊して行った。 母親は鬱になり、父親は家を出て行った。 俺は学校を辞めて、色んな場所で野宿をして暮らしてた。仕事を見つけてからは、貯金が趣味になり、少しずつ貯めた金でようやく人並みの…

時雨月の音 5

5 Masaki Rain 妙に早起きだった。 最近年を気にするせいか健康志向で保守的だ。 こうやって爺さんになっていくのかな…なんて自嘲して家を出た。 黒い大きな傘を開いてゴミ捨てに向かう。 一人暮らしだと大したゴミも出ないもんだと手に下げた袋をチョイと引…

時雨月の音 4

4 自分のジーンズで手の平をゴシゴシと軽く拭いてから、クシャッと微笑んで手を伸ばして来た。 握手を求められているのに、持っていたグラスの事さえ忘れて手中からそれは床に落下して、砕けて割れた。 『わっ!大丈夫っ?!動かないでっ!』 裸足の俺を制止…

時雨月の音 3

3 「上がって下さい」 玄関で立ち尽くす傘を持った男は今更になって戸惑い始めているようだった。 俺はバスタオルを頭に被り濡れた髪を雑に拭きながら笑った。 「ハハ…さっきのキス…冗談ですよ。…そんなに警戒しないでください。何もとって食わないですよ。…

時雨月の音 2

2 『風邪を引きますよ。今日は随分冷えるから』 傘を差し掛ける彼はサラサラのブラウンの髪をセンター分けにして、綺麗な長い指で傘を握っていた。 ニッと片方だけ口角が上がる。 『大丈夫…ですか?』 もうすっかりびしょ濡れだった俺はハッと我に返り視線を…

時雨月の音 1

1 愛されたい 愛されたい 願わくば おまえに おまえは勝手に俺の愛を持って行くのに、俺を忘れて居なくなる。 暗く狭い場所に いつまでも丸くなってる俺を 誰か 愛して欲しい。 目覚めに捻った栄養ドリンクの蓋がカシャっと音を立てた。 飲み干しかけてとど…