時雨月の音6
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兄の雅紀が交通事故で亡くなって以来、家族の形がみるみる崩壊して行った。
母親は鬱になり、父親は家を出て行った。
俺は学校を辞めて、色んな場所で野宿をして暮らしてた。仕事を見つけてからは、貯金が趣味になり、少しずつ貯めた金でようやく人並みのマンションを借りて誰の目からも遠慮なく生活が出来るようになった。
夜の仕事を渡り歩き、今現在はBARのバーテンダーをしながら細々と食いつないでいる。
相葉さんが出て行った部屋。
俺はまたぬいぐるみに手を伸ばして甘えるように、抱きしめた。
あんなにソックリな人が居るんだな…名前まで、雅紀って言ってたぜ。
なぁ…
雅紀…今、おまえはどこに居るの?
俺は、こうやって…違う誰かに抱かれて…
雅紀に抱かれていた事を
忘れていくのかな…
足元を流れる白濁に指を絡めて、自分の熱に塗り付けた。
雅紀の体液に包まれて欲望が膨らむ。
ヌチャ グチュ グチュ
「ハァッ…ハァッ…ぅ…んっ…まさ…きっ」
上下する手が忙しく、塗り付けた 白濁 は濁りながら俺を汚した。
雅紀で…雅紀じゃない。
ここは一体…どっちの世界だって言うのさ…。
もう、あの事故から5年が過ぎる。
俺は22歳になり、生きていたら雅紀は24歳だ。
気付けば兄の年を追い越して、俺はたまに怖くなる。
永遠に二十歳にならない兄に囚われて、17才の俺が成長しない。現実で無駄に年を重ねるだけで、あの日から何も変われない。
何人かと寝た事はある。
だけど…どれも途中で逃げだしたんだ。
雅紀じゃない事に、身体も心も我慢出来ず…。
なのに今日、初めて会ったばかりの男にぐちゃぐちゃにされて、俺は満たされたような脱力感を覚えていた。
5年の歳月が…
雅紀をボンヤリ消していく。
怖くなって、また泣いていた。
リビングの隅の写真立ての中…。
俺の肩を抱いてクシャっと笑った顔をしている雅紀。
相葉さんがこの写真を見たなら、随分驚いた事だろう。
俺は熱いシャワーを浴びに浴室へ向かうとゆっくりゆっくり、乱れる呼吸を整えた。