高橋さんと藍くん 101
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結局、誤解してつまらないヤキモチを妬いたのはほんの一瞬の出来事で終わった。
暗い非常階段の踊り場。
立ち上がった文也の手を引き、壁に押し付け、藍は薄い唇を堪能していた。
「もぅ…戻らなきゃ…」
「…もう少しだけ…」
藍は文也の腰を抱き寄せる。
既に息も上がり蕩けるような表情の文也。
藍の身体が密着してくると、股間に固いモノが当たる。
「あ、藍くん…」
下半身に目をやると、スラックスの前がキツそうに膨らんでいた。
「先…戻ってて下さい。すぐ戻ります。」
藍がどうしょうもないといったように頭を掻いた。
その我慢している様が可愛くて、文也はゆっくり床に膝をついた。
「た…高橋さん?」
「会社でこんな事…絶対ダメなんだからな…きょ、今日だけだよ…僕が悪かったし…」
そう言って、文也は掛けていた銀縁眼鏡を外し、丁寧にテンプル部分を折りたたむと、胸ポケットへしまった。
ゆっくり藍のベルトに手を掛ける。
「っ…た、高橋さんっ」
非常階段は誰も使わない。普段は皆、エレベーターを使う。ただ、微かに聞こえる重い鉄製の扉の向こう。ヒールのすれ違う音。時折高く響く笑い声。バクバクとなる心臓の音とは裏腹に欲望のままに勃ち上がる藍の熱。
文也はそれに白い指を絡めて、裏筋から掬うように舌を這わす。
「っはぁ…」
熱い吐息に、文也は自分の熱がジクジクと盛るのを感じていた。
藍のものを口一杯に頬張りながら、自分の下半身を手で押さえつける。
「高橋さん、俺のしゃぶりながら気持ちよくなっちゃったの?…可愛い…」
息を荒げながら、卑猥な言葉をかけられて文也はより興奮していた。自分がこんな一面を持っていたなんて恥ずかしいはずなのに、まるで欲しがるように唾液を絡めながら藍をうっとり見上げてしまう。
「…高橋さんもそれじゃ戻れないな…」
「あ、藍くんっ!」
「はい、これ、口で咥えてて下さい。汚れちゃうから」
藍は文也の腕を掴み立たせるとベルトを緩め、シャツを引き上げその口に咥えさせた。
「一緒に…ね」
藍が自分の熱と文也のモノを大きな手のひらで握った。
「んぅっ!」
ワイシャツを咥えている文也はその感触にビクンと身体を揺らす。
「大きな声…ダメですよ。我慢して。…誰にも聞かさないで。俺だけでしょ?高橋さんに、こんな事出来るのも…そんな声聞いて良いのも…俺だけだよ。」
耳元で囁かれ、下半身を擦り合わせられ、文也は頭がおかしくなりそうだった。
「ンゥッ!んぅ〜っっ!」
涙が溜まった顔でシャツを咥えたまま首を左右に振る文也。
「イキそう?…良いよ。俺もっ…っっ!」
藍の手のひらに二人分の白濁が滴る。
ガクンと体勢を崩した文也は藍の肩に額を倒した。
「大丈夫ですか?」
スリッと頬擦りされ、またドキンと心臓が高鳴る。
「本当に君は…僕をおかしくさせる。…怖いよ」
藍はハッとした。文也が涙目で目を合わせ呟いた"怖い"は、やり過ぎたせいかと心配したからだ。
「嫌いにならないで…高橋さん…」
怯えたような表情は、文也をプッと吹き出すほど笑顔にした。
「ならないよ。…僕だって、特定の人を作らず七年もいたわけじゃないんだから。」
「そ、それって!」
文也は恥ずかしそうにチラリと藍を見上げた。
「僕もずっと君が好きだった…心のどこかで…ずっとね」