ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

時雨月の音 13

13 夕方、大野さんの腕をすり抜けてキッチンに入った。 黒い大きな冷蔵庫を開くと水のペットボトルが何本か並んでいて、そのうちの一つを取り出して蓋を捻った。 ベッドに入った時に降り出した雨は上がっている。 一睡も出来なかった。 窓ガラスを流れる雨の…

時雨月の音 12

12 約束通り、大野さんはハンバーグ弁当を頼んでくれた。 広いリビングで、床に胡座をかきながら2人で食べた。 それから、一緒にお風呂に入って、髪を洗って貰って…ベッドで一緒に寝た。 勿論…何もないまま。 俺は大野さんの抱き枕みたいになりながら、冴え…

時雨月の音 11

11 「ハンバーグ食べたいです」 「…ん?…わぁ〜ったよ。Uber ○ーツでもなんでも頼みゃ良いだろ」 「んふふ…じゃ、お願いしますね」 手を引かれながら俺は俯いたまま笑った。 大野さんの家はparadoxから少し離れた場所にあるマンションだった。 中は広くて、…

時雨月の音 10

10 雅紀…雅斗…双子… 仕事が済んだ明け方。結局あれから、頭は回らないままだった。 雅紀にソックリな奴がいっぺんに2人も現れて正直パニックもいいところだ。 あんなに何年も見たかった笑顔がすぐ側にあった。あんなに欲しかった温もりのある腕がすぐ…側に。…

時雨月の音 9

9 Masaki Rain 深夜を回った頃だった。 玄関が開く音、靴を脱ぎ捨て、鍵をシューズラックの上に放り投げる。 ジャラジャラ付けたアクセサリーが繋がれた犬みたいに音を鳴らしてリビングに近づく。 手前のキッチンに入り冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を直…

時雨月の音 8

8 店内の薄暗い照明の中、男女のカップルが密着し合いながら愛を語り合う。 滑稽な姿に映るようになったのはいつからだろう。 俺にも、あんな風に愛しい瞬間は あったはずなのに。 トンと肩に手がかかって先輩バーテンダーの潤くんが俺を覗き込んだ。 「顔色…

時雨月の音 7

7 「おはようございまぁ〜す」 ダラしない首回りが伸びたようなロンTに緩々のパンツ。まるで寝巻き姿のような私服で暗がりの裏口を開く。 ビルの地下にあるBAR、paradox。 俺の勤務先だ。 頭をボリボリ掻きながらタイムカードを機械に差し込む。 ジジっと音…

時雨月の音6

6 兄の雅紀が交通事故で亡くなって以来、家族の形がみるみる崩壊して行った。 母親は鬱になり、父親は家を出て行った。 俺は学校を辞めて、色んな場所で野宿をして暮らしてた。仕事を見つけてからは、貯金が趣味になり、少しずつ貯めた金でようやく人並みの…

時雨月の音 5

5 Masaki Rain 妙に早起きだった。 最近年を気にするせいか健康志向で保守的だ。 こうやって爺さんになっていくのかな…なんて自嘲して家を出た。 黒い大きな傘を開いてゴミ捨てに向かう。 一人暮らしだと大したゴミも出ないもんだと手に下げた袋をチョイと引…

時雨月の音 4

4 自分のジーンズで手の平をゴシゴシと軽く拭いてから、クシャッと微笑んで手を伸ばして来た。 握手を求められているのに、持っていたグラスの事さえ忘れて手中からそれは床に落下して、砕けて割れた。 『わっ!大丈夫っ?!動かないでっ!』 裸足の俺を制止…

時雨月の音 3

3 「上がって下さい」 玄関で立ち尽くす傘を持った男は今更になって戸惑い始めているようだった。 俺はバスタオルを頭に被り濡れた髪を雑に拭きながら笑った。 「ハハ…さっきのキス…冗談ですよ。…そんなに警戒しないでください。何もとって食わないですよ。…

時雨月の音 2

2 『風邪を引きますよ。今日は随分冷えるから』 傘を差し掛ける彼はサラサラのブラウンの髪をセンター分けにして、綺麗な長い指で傘を握っていた。 ニッと片方だけ口角が上がる。 『大丈夫…ですか?』 もうすっかりびしょ濡れだった俺はハッと我に返り視線を…

時雨月の音 1

1 愛されたい 愛されたい 願わくば おまえに おまえは勝手に俺の愛を持って行くのに、俺を忘れて居なくなる。 暗く狭い場所に いつまでも丸くなってる俺を 誰か 愛して欲しい。 目覚めに捻った栄養ドリンクの蓋がカシャっと音を立てた。 飲み干しかけてとど…