ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音 4

4

自分のジーンズで手の平をゴシゴシと軽く拭いてから、クシャッと微笑んで手を伸ばして来た。

握手を求められているのに、持っていたグラスの事さえ忘れて手中からそれは床に落下して、砕けて割れた。

『わっ!大丈夫っ?!動かないでっ!』

裸足の俺を制止させて、相葉さんは砕けたグラスを拾い集め始めた。

「あっ…危ないですよ!すみません!俺やりますから!」

慌てて屈むと、前髪が触れ合うくらいの距離になり、相葉さんが俺をジッと見つめて苦笑いした。

『出会ってから…ほんと謝ってばっかですね』

俺は膝を突いて身体の力が抜けるのを感じていた。

雨音

秒針

鼓動

唇は重なり、縺れる ように ベッド に入った。

「ん…ぁ…ぁあッ!…ハァ…んっ…ハァ…相葉っさんっ…」

『足、自分で持てますか?』

すっかり熱に浮かされた 雄 の顔をした彼は俺の 下を脱がして、左足を 抱え させた。

いつからか熱くして いた 熱 に舌 が這う のを感じながら 後ろ を拡げる 唾液 塗れ の長い指が俺の 身体 に電流を流した。

「ぁっ!はぁっくぅっ…当たって…る…ダメだ…」

『すっごい…前も 我慢 出来ない?』

「やっめっ!…っ…!はぁっ!」

『やめて…良いんですか?もう…中、トロトロですよ?』

相葉さんは に差し込んだ 指 を中で 動かし、俺の 熱 から 滴る 汁を 掬うように 舐め た。

熱と舌先 に銀色 の糸が 繋がる。

足を 抱え ながら 下で起こっている 羞恥と 快楽 を覗き込み天井を仰ぎみた。

「ハァッ…ハァッ…入れ…ろよ…はやっく!」

中が 疼く。

もう…随分と前に感じた 快楽が 蘇る。

雅紀…

雅紀だなんて

冗談だ

カチャカチャ と ベルト の金具が音を立てて、膝で 立った彼は 熱く たぎった 熱に手を添え て俺の 身体に 覆い被さっ た。

「くっ…キツ…いっ…ぁぁあっ!」

『っ…気持ちいいっ…動くよ』

最奥 に潜り込ん だ熱に息 が詰りながら、反り返る背中に腕が入りあっという間に 抱え あげられ た。

「ぁあっ!はぁぁんっ!んぅっ…!!!」

座位 になった身体は 彼の 腕で 上下に 揺さぶら れ頭の中が真っ白になる。

あの日から止まったような時間が、ついさっき動いたと勘違いしたら、こんなに 身体 が我慢 出来 ずにいる。

雅紀じゃないのに…

雅紀じゃないのに…

身体が震えて何度もイカされた。

グッタリシーツに 沈む 身体 から 垂れ流れる白濁 を相葉さんが 撫で ながら 掬った。

『中で いっぱい出しちゃった…掻き出しとこうか?』

俺は相葉さんから目を逸らし枕に顔を埋め首を左右に振った。

「あんた…男好きなの?」

『…そういうわけじゃ…まぁ、経験が無いわけじゃないけど…寂しそうな顔するから』

俺はカッと頭に血が昇るのを感じていた。

"おまえはいっつも寂しそうな顔するな"

バフッ!!

顔を埋めていた枕を相葉さんに投げつける。

「帰って貰えますか!」

蘇った過去の記憶に苛立ちがマックスに高まる。

『…気に、障りましたか?』

なんの動揺も見せず相葉さんは呟いた。

「…帰れよ….帰れっっ!!」

『…グラス…気をつけてくださいね。』

うるさい!

うるさい!

うるさい!

愛されたい!愛されたい!愛されたい!

愛され無いっ!!

俺はっ!いつも愛されない!

バタンと背中越しに閉まる玄関の音が鈍く響いた。

一人でいい。

いつだって愛されるのは雅紀だった。

いつだって、どこにいたって!

だから…

だから…俺は…

おまえを試した。

お人好しで、愛想が良くて、愛嬌の塊みたいなおまえは…

俺の兄。

それでいて…馬鹿みたいに俺を

愛してるなんて言って…

最悪の嘘つきだった。

最悪の兄だった。

俺が、他の誰かと付き合い出した日の夜。

絶望に暮れたような目をして出て行ったおまえは…戻らなかった。

車にはねられて

即死だった。

俺は試したんだよ。

本当に俺みたいな奴を愛してるのか

気の迷いなんじゃないか

揶揄っているのか

他に好きな人が出来たと言えば…

いい加減気づくんじゃないかって

男同士で

実の兄で

そんなおまえをこれ以上

汚さない為にも

試したんだ。

誕生日の前日だった。

俺は17でおまえは19だった。

なのに…プレゼントに俺の名前を刺繍したテディベアなんか用意して

女みたいに扱って

雨の日に

おまえは 死んだ。

誕生日は永遠に来なくて

おまえは永遠に

二十歳にならなかった。