時雨月の音 1
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愛されたい
愛されたい
願わくば おまえに
おまえは勝手に俺の愛を持って行くのに、俺を忘れて居なくなる。
暗く狭い場所に
いつまでも丸くなってる俺を
誰か
愛して欲しい。
目覚めに捻った栄養ドリンクの蓋がカシャっと音を立てた。
飲み干しかけてとどまり、片目を閉じて中を覗いてみる。
ユラリと中の残りが茶色い瓶底で波打った。
心の琴線に触れてくるようなものでは無いはずなのに、何故だか涙が滲んだ。
弱りきった朝だ。
愛されたい
愛されたい
弱虫の俺は
誰かにいつもそれを懇願している。
「今日は…ゴミの日…」
カレンダーを頼りなげに指先でなぞる。
見渡すと部屋の中はあまりに汚かった。
ペットボトルの中身が少し残っていながら床の上を転がっている。
食べかけたカップ麺の残りがブヨブヨに膨らんで溢れそうな姿。
ローベッドはすでにフローリングと一体化する程に脱ぎ散らかした衣類で埋め尽くされていた。
「片すか…」
俺は1番にボロボロのクリーム色をしたクマのぬいぐるみをベッドの壁側に寄せた。
クタリと弱った風なそのクマはまるで首を傾げるように俺を見つめた。
ゆっくりベッドに膝を突いてぬいぐるみを抱き上げる。胸元に引き寄せ、愛しい人にする抱擁のようにして抱きしめた。
スーッと息を吸い込んでも…もうアイツの匂いはしない。
俺は苦笑いを浮かべながらもぬいぐるみに頰を寄せた。
「雅紀…」
俺はぬいぐるみに向かって呟くと…ソッと腕から離して元の場所に戻した。
拾っては捨てるを繰り返し、ようやく部屋の床が半分くらい見えてきた。
最後にピザの箱を放り込んだあと、黒いゴミ袋の口を縛って両手に2袋を玄関から外のゴミステーションに運んだ。
天気は雨で、さめざめとした寒気が身体を包む。
季節の頃は秋の入り口…。
シトシトと降る雨に俯いていたら、耳元でバタバタと雨音に変化があった。
驚いた割にゆっくり後ろを振り返る。
そこには背の高い男が俺に向かって傘を差しかけていた。
クシャッと笑う顔に息を飲む。
「ま…さ、き」
思わず口をついて出た名前に
自分で驚いた。