ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音53 最終回

53

 

 

 

paradoxを出たのは明け方。

外は真っ暗なせいか、空から降る粉雪は白くてキラキラ光り輝いていた。

 


もうすぐ雅紀の命日だ。

永遠に20歳にならない兄を越えて俺は生きてきた。

寂しい空の漆黒は、俺を闇へ度々引き摺り込もうとする。

 


キラキラ

キラキラ

光る雪に目を向けて、空に向かってハァッと息を吐いた。

俺の体から温もりが吐き出されて漆黒を一瞬白くする。

 


何だか無性に相葉さんに逢いたくて、同時に雅斗の声に触れたくなる。

まだ早朝のこんな時間…。

 


俺は雅斗が帰らない間、何度か訪れた相葉さんのマンションに向かって歩いていた。

雪はいつしか雨に変わる。

聞こえるんだ時雨月のあの雨音が。

 


シトシトと肩を濡らす小雨に駆け足で街を抜けた。

 


マンションに着いて、インターホンを鳴らす。

優しい声が俺を迎えて、玄関を抜ける。

 


「おかえり、和」

『和、おかえり』

 


「ただいま…」

雅斗がタオルで髪を拭いてくれる。

濡れた上着を相葉さんが着替えさせて、広いベッドに誘われる。

 


雅紀と雅斗に、ただ抱きしめられて、温もりで微睡むシーツに沈む。

 


愛しい

愛されたい

愛したい

 


向かい合う相葉さんの胸に擦り寄って、背中から雅斗に抱きしめて貰う。

 

 

 

雅紀…

俺は生きて行けそうだよ。

もう、間違わない。

愛を試すなんて馬鹿な真似はしない。

ここにある温もりが、きっと愛なんだろ?

 


俺は、今

愛されて愛して、こんなにも幸せです。

 


時雨月、おまえにそっくりな人に出逢って、

あの日の雨を

 


忘れられそうです。

 


シトシト シトシト 響く音。

 


時雨月、無くした愛が戻った日。

 


俺は、元気です。心配しないで。

 


さようなら

 


雅紀。

 

 

 

         END