ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音52

52

 


Masaki Rain

 

 

 

スッと開いた寝室の扉。

香るのは雅斗の香水。

近づく足音。

上着を脱いでフローリングに落とす音がした。

うんと冷えた空気を纏った雅斗だと直ぐに気付いて、俺は毛布を持ち上げてベッドから見上げた。

俺を見下ろす瞳が暗がりでも潤んで見える。

 


ゆっくりベッドに入る雅斗を抱きしめた。

雅斗もゆっくり、俺を抱きしめてくれる。

 


2人額を合わせ見つめ合う。

『おかえり』

「ただいま」

『…愛してる』

「うん…俺もだよ。ちゃんと…雅紀を愛してる」

 


2人微笑み合い、身体を寄せて目を閉じた。

 


何も起こらない愛のある抱擁。

誰に理解されなくても構わない俺達だけの思い。

 


髪を撫でると、雅斗も俺にそうしてくれる。

深い息が漏れて、ギュウッと頭を抱き寄せた。

雅斗が胸元で呟く。

「好きな人が…出来た。」

『うん…』

「バカなんだけど…俺の事が大好きなんだって…雅紀には勝てないけどなぁ…良い奴なんだ」

『うん…俺には…きっと勝てないね』

 


雅斗は満足そうに、へへ…っと笑った。

 


それから、俺達は語らず眠りについた。

寒くて暗い寝室は、雅斗の体温で柔らかく暖かい。

 


生まれる前から、一緒に居たんだ。

だから一人になれないでいた。

 


寂しいは嫌い。

寂しいは辛い。

寂しいは苦しい。

 

 

 

だけど…

お互いに見つけられたんだね。

 


身体の片側が満たされる人。

 


朝が来たら、少し聞かせてよ。

おまえが愛した…大切な人の事。