時雨月の音46
46
Masato Rain-
龍我にグイグイ手を引かれマンションのエントランスまで来た。
「待てよっ!待てって!龍我!」
俺の手を引いていた龍我はピタリと立ち止まる。
俯いたまま顔を上げないし、手首を掴む手に更に力がこもるのを感じていた。
「いつから聞いてた?」
「何がですか?」
「良いからっ!どこから聞いてたんだよ」
「……お兄ちゃん離れ…辺りです」
「フフッ…序盤じゃん…で?何で怒ってんだよ」
「…雅斗さん泣かす人は…お兄さんでも…許せません」
俺はまた、何ともいえない表情になる。
「…なに…おまえの好きって…」
「そういう好きです。…ずっとずっと憧れで…ずっとずっと、恋してました。」
グイッと掴まれていた手を引き寄せられ、マンションのエントランスで抱きしめられる。
「…若いなぁ…」
「はい…だから…色々教えて下さい。俺に、相葉くんの」
「雅斗…名前で呼ばせてやるよ」
「ま、雅斗くんの…こと…もっと教えて下さい」
ギュッと腰に回った腕は…雅紀より長くて、力強かった。
優しさと言うよりは若い勢いを感じる抱擁に苦笑いが溢れる。
肩に頰を乗せて呟いた。
「…おまえの事も…教えろよ…」
雅紀を兄に変えて、和を忘れさせてくれるくらい…
おまえの事を
教えろよ。
俺たちは寄り添って雨上がりの夜道を歩いた。
会話は下らない話。
最近食ったラーメンの味と、嫌いな映画の文句。大好きな女優がビッチだった事や、今入ってる撮影の流れ。
龍我の一人暮らしのマンションは和の部屋みたいに狭くて、汚かった。
それでも、俺はよかった。
龍我は俺を求めたし、俺も龍我を求められた。
「ネコになんのなんかっ…ぁっ…ひさっしぶり…」
狭いベッドは温かい。
身体を預けるのは容易く心地良い。
脇腹をなぞる熱い舌先に身体がしなる。
「大好きです…雅斗くんっ…大好き」
タイミングが合えば
人はこんなにも簡単に次の一歩を踏み込んでいける。
「龍我っ…もっと…俺をっ…壊せっ…」
しがみついた身体をシーツにキツく押し付けられた。
驚いた顔をする俺の手首を掴みながら龍我は小さく怒鳴りつけるように吐き出す。
「壊しません!何があったかなんて知らないっ!ただっ!俺はあなたが大好きだからっ!!絶対っ!壊しませんっ!!」
唇を塞いだ龍我は俺の身体を優しく撫でる。
優しさが口内で甘い唾液になって絡みつく。
いつの間にか涙が溢れて…止まらなくなっていた。
ガクガクと揺さぶられる身体が、辛くてじゃない。
龍我の温もりも、優しさも…
今の俺には、あまりに強い薬のようだったから。
寂しいは嫌い。
寂しいは辛い。
寂しいは苦しい。
和も雅紀も…
側に居るのに
俺は寂しいなんて…
ウンザリだ。