ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音 37

37

 


「ねぇ…和…こっち向いて」

雅斗の呼びかけに、キスをして俯いていた顔をあげた。

「うっわ!見事な逆光!アハハ」

一瞬パシャっと音がする。

ケツのポケットから出した携帯電話で写真を撮った雅斗は画面を見ながら呟いた。

「近いから写ってる…和のブラウンの目…綺麗だな」

首をコテンと倒しながら、ベンチに後ろ手を突いて俺に微笑んだ。

キュンとするような屈託のない笑顔は、雅斗の良いところなんだと思う。

「勝手に撮るなよ…恥ずかしいだろ」

不貞腐れたように呟くと、俺の腰に腕を絡めて額にキスをしてくる。

「恥ずかしい?綺麗だよ…可愛い」

甘い言葉に居心地が悪くて身を捩った。

「なぁ…おまえんち、教えて。雅紀だけしってるなんてフェアじゃないだろ?」

俺は一瞬キョトンとしてから、笑い出してしまう。

「何だよぉ…笑う事ないだろ」

「ふふ、あはは!ごめん…だって何か可愛いんだもん」

雅斗は携帯画面を構えて俺を引き寄せた。

頰が重なりシャッター音がする。

「イエーイ!ツーショットは雅紀も撮ってないよな!俺の勝ちぃ〜」

撮った画面を何だか切ない微笑みで見つめる雅斗。

あんな風に喜ぶくせに…。

「行こうぜ」

急に俺を膝から下ろして立ち上がる。

「俺んち?」

「和んち」

手を引かれて仕方なく歩いた。

高台から降りた頃にはしっかりとした朝が訪れていて、俺はもう地球上最後の一人では無くなっていた。

雅斗は人目も憚らず手を繋いだまま離さない。

マンションの前に着いて雅斗を振り返る。

「汚いよ?」

「何?最後の悪あがき?俺を入れようか迷ってんだ?」

俺は内心、言い当てられたと思いながらも、首を左右に振った。

「迷ってない…ただ、マジで汚いから綺麗な仕事してる人が見たらビックリするんじゃないかなって…思っただけだよ。」

雅斗は苦笑いしてポツリと呟いた。

「綺麗な仕事なんて…ないよ」

雅斗はチャラくて軽い男のくせに時折、抱えきらない寂しさを背負っている顔をする。

それは油断した時にチラリと覗き、堪らなく心を支配する。

鍵を回して、玄関扉を開き雅斗の手を引いた。

「どうぞ…入って」

雅斗はニッコリ笑ってお邪魔しまーすと靴を脱いだ。

狭い部屋をぐるっと見渡して、ツカツカと真っ直ぐ写真立てに向かう。

本棚の上に置かれたソレを手にしてジッと黙っていた。

俺はローベッドに腰を下ろして話しかける。

 


「驚くでしょ?」

「あぁ…マジで…三つ子だったんじゃねぇかって…ビビってる」

雅斗は正直に呟いて写真立てを棚に下ろした。

「俺も初めて相葉さんと会った時、ビックリしたよ。雅紀が戻ったと思った。そしたらさ、名前まで同じなんだよ?そんな偶然あるわけないのに…」

雅斗はゆっくり俺に近づいて、フローリングに膝をつき俺の頰を両手で挟んだ。

 


「偶然じゃない…運命だって…思った?」

一瞬見せた暗闇にいるような視線にゾクリと背筋が痺れて、俺は後ろ手を突いて軽く後ずさった。

頰を挟む手がゆっくり首筋に張り付いて、撫で下りて、唇が塞がれながらベッドに背中が沈む。

「っんぅっ…んっ…雅…斗っ…」

雅斗の手は片方で俺の手首を頭の上で押さえつけた。もう片方の手はゆっくり下着の中に差し込まれる。

「雅斗っ!……ッダメっ!」

拒む言葉を出した俺を、雅斗は泣きそうな顔で見下ろしてくる。

「ダメ?」

「だって…俺…」

雅斗は首筋に顔を埋める。

「ンッ!…ダメだよっ…」

「俺じゃ、ダメなの?…和…」

「ぁ!んっ!!ぁあっ…そっ…そこっはっ!…ダメだっ…てば!」

雅斗の指は後ろをまさぐる。

数時間前まで相葉さんを受け入れていたせいですんなり雅斗を受け入れようとした。

「チッ…まだ兄貴のが残ってる…」

「だっからっ!やめっ!んぅっ…はぁっ!」

雅斗の指は俺の良い場所なんてすぐに見つけ出してしまう。

かき出さないままにしておいた相葉さんの白濁に指が触れて雅斗は嫌な顔をした。

だけど、行為を続ける事をやめてくれない。

俺はいつしか喘ぎながも泣いていた。

「雅っとっ…ヤダっ…ャ…ぅ…ぅゔ…」

雅斗がピタリと動きを止めた。

それから…俺を抱きしめて、呟いた。

「どうして…どうして皆んな…雅紀が好きなんだょ…」

「雅斗…」

「ふふ…なぁんてな…やめたやめた!俺、無理矢理とか好きじゃないし…」

あっけらかんと吐き捨てて、身体を起こした。

でも…思い詰めたみたいな一言を…俺は忘れない。

 


"どうして皆んな…雅紀が好きなんだよ"

 


俺自身が…ずっと抱いて来た思いにリンクした言葉。

 


雅紀は皆んなに愛されていた。

相葉さんも…きっと同じ。

 

 

 

俺と雅斗は…同じ思いを抱いた事に…

惹かれあっている気がして…

堪らなくなって唇を噛み締めた。

覆い被さっていた身体の重みさえ感じなくなって、俺に背中を向けて俯いて座ってる雅斗が愛しかった。

起き上がって、その背中に抱きつく。頰を寝かして、囁いた。

 


「雅斗…ありがとう…ありがとうね…側に居てくれて。」

「…ハハ、何それ…まるで俺が和を慰めに来たみたいじゃん。俺は…」

「雅斗…キス…しよ」

背中にキスをしながら呟く。

「雅斗のキスが…好きだよ」

ゆっくり振り返った雅斗は苦笑いして

「新手の拷問かよ…仕方ないなぁ…」

そう呟いた。

ゆっくり俺の頰を包み、深く口づけた。

ただ、キスをしただけだ。

 

 

 

処方箋薬のような

 


確実な効き目の

 


キスをしただけ…。

 

 

 

雅斗はそれ以上、俺に何もしなかった。