ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音36

36

 

 

 

相葉さんが出て行った。

腹に吐き出した俺の迸りに、懐かしい余韻を感じながら、ベタベタといじった指が汚れていた。

だらしなく立ち上がって、その指先で写真立ての写真を撫でた。

 


ベッタリと

白く

情けない。

 


シャワーを浴びて、暫くぼんやりしていた。

 


相葉さんがショックを受けたような顔をして出て行った。

それは、ごく普通の反応だろう。

自分を殺して、他人の代わりをしてくれなんて、都合が良すぎる。

 


最後まで言い切らなかった俺と、最後まで聞かなかった相葉さん。

 


さようならなんて

よくも口をついて出たもんだ。

自嘲した薄笑いは俺を更に落ち込ませた。

暗い部屋に居るのが息苦しくて、外へ出る。

夜明け前の道路は車がほとんど走っていない。

まるで、世界が滅びたのに、自分だけ生き残ったかの様な感覚。

確かに建物の中に人間はいるはずなのに、冷んやりして…無人な錯覚。

俺は緩やかな山肌に沿った道を歩いていた。

高台から、今なら朝陽が見える。

そう遠くはないし…今は相葉さんの事を考え込むような空間にいるべきじゃなかったからちょうど良かった。

少し枯れた草木を掻き分けて、高台にある雅斗に教えて貰ったベンチへと足を踏み込む。

さっきまで地球上に俺一人だったはずなのに、人の声がして思わずポロリと声が出た。

 


雅斗…。

ベンチにふんぞりかえるように長い足を放り出して座っていた男がビクッとこっちを振り返った。

 


そこからはすっかり雅斗のペース。

相変わらずチャラい口振りで俺の身体を膝に乗せて後ろからハグをする。

 


触れられたくなかった相葉さんの話は雅斗の性格上、黙っているはずはなかった。

 


喧嘩をしたんだろ?とか聞かれちゃって、そんなんじゃないって返したら、ヘラヘラし

てたくせに、真顔で馬鹿な事を言う。

 


「俺は代わりで構わない。」

 

 

 

構わないよ

 


なんて、念を押すから我慢していた寂しさも悲しみも、怖さも我慢出来なくなって、どうしょうもなくて、涙が勝手に溢れ出していた。

 


寂しい

悲しい

愛したい

愛されたい

 


愛されない

 


相葉さんにさようならと声にして…

ずっと抑えていた何かが崩れた気がした。

 

 

 

「好きになって。ゆっくりでいいから…俺を愛して」

 


雅斗が呟いた。

 

 

 

俺を愛して、なんて…

 


俺は雅斗の唇に何度もキスをした。

 


雅斗とのキスは

安心をくれる薬みたいだ。

 

 

 

温かくて気持ちいい。

 


なのに…

俺は、相葉さんの事を

 

 

 

考えていた。