時雨月の音44
44
相葉さんはあのままうちに泊まって、朝が来た。
ベッドの隣りに姿が無くて狭い部屋を見渡す。
ガチャっと玄関扉の音がして慌てて視線をやると、クシャっと笑う相葉さんが立っていた。
『朝ご飯買ってきたよ』
手には茶色い紙袋。
二人ベッドの毛布に包まって相葉さんが買ってきたサンドイッチを食べた。
フワフワの食パンに挟まったボリュームのある具材がぎっしりつまっている。
「美味しい」
『くふふ…マヨネーズ、付いてる」
相葉さんは俺の口元をペロリと舐めた。
キュッと肩に力が入って閉じた目を開いたら、唇を塞がれる。
俺は心から幸せを感じて、一生懸命応えるように彼にしがみついた。
『俺は休みなんだけど…和は今日も仕事?』
相葉さんが俺を見つめる。
「うん…俺は仕事だね…昨日ズル休みしちゃったし、潤くんに迷惑かけられないから」
『そっか…じゃ、夕方まで一緒に居られるね』
「うん」
相葉さんの長い指が髪に埋まり、クシャッと撫でた。
幸せを感じながら、頭の隅で、雅斗の屈託ない笑顔がチラついていた。
俺を好きだと言いながら、雅紀を愛している目をした雅斗。
俺はそのどちらをも…彼から奪う事になる。
そんな残酷な事が出来る人間だとは思ってなかった。
思ってなかったのに…
もう、手放せそうにない。
夕方まで、いつまでだって毛布に包まっていた。
paradoxへ向かう俺と、自分の家に帰る相葉さん。
二人は中々絡んだ指先が解けないでいた。
そんな風に何とか別れたんだ。