時雨月の音 12
12
約束通り、大野さんはハンバーグ弁当を頼んでくれた。
広いリビングで、床に胡座をかきながら2人で食べた。
それから、一緒にお風呂に入って、髪を洗って貰って…ベッドで一緒に寝た。
勿論…何もないまま。
俺は大野さんの抱き枕みたいになりながら、冴えた目を閉じれないでいた。
太陽が高いせいか、カーテンの隙間から空からの階段みたいに光が差し込んでいた。
身体に巻き付く日焼けした肌を撫でて時間をやり過ごす。
今寝ないと、また夜が大変になるのに…家にしか薬がない事をうっかりしていた。
おまけに大野さんがあんな風に言うから余計に調子が狂う。
今まで誰とも付き合う事なんてなかった俺が突然色気付いたとでも思って不安になったのか…。
さっぱりした人だと思っていただけに胸が痛んだ。
大野さんは…俺が好きなんだろうか…。
"勝手に行くな"
そう言った彼の声は震えていて、今まで一度だって無理強いする事のなかった行為を強制的に続けようとした。
スヤスヤ寝息を聞いていると、自分の醜い心音が嫌になる。
俺は…恩のある彼に…応えるべきなんだろうけど…
どうしても忘れられない。
雅紀みたいに笑う…偽者のマサキが。