ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

時雨月の音 11

11

 


「ハンバーグ食べたいです」

「…ん?…わぁ〜ったよ。Uber ○ーツでもなんでも頼みゃ良いだろ」

「んふふ…じゃ、お願いしますね」

手を引かれながら俺は俯いたまま笑った。

 


大野さんの家はparadoxから少し離れた場所にあるマンションだった。

中は広くて、何もない。何もないかわりに沢山のキャンバスが立て掛けられていた。

彼は多才で、過去有名な賞をとったバーテンダーだった上、現在はparadoxのオーナーであり、絵描きだ。

 


俺は立て掛けられたキャンバスを人差し指と中指でパタパタめくっていく。

「相変わらずですね…沢山描いてる」

「あぁ…今度な…個展でも開いてやろうかと思ってさ…」

後ろからギュッと抱きしめてくる大野さん。

俺は俯いてフッと笑うと呟いた。

「珍しいね。欲求不満?」

大野さんは俺を抱きしめた腕を身体に這わせながら首筋にキスをする。

「いや…一昨日、読モやってるとか言う若い女抱いたとこだ。」

「何それ…どこの読モだよ、ふふ」

「何であの客に絡んだ?」

「絡んでません。」

「ビンタしたって」

「……あぁ…しました。でも、絡んでません」

身体を這う手が止まって、クルンと向きを変えられる。

向かい合い抱きしめられると

「そういうのを絡んだっつーんだよ。」

「すみません…でも、本当、なんでもないんです」

「ふぅ〜ん、そ。…………なぁ…しゃぶってくれよ…」

身体を引き離した大野さんはそう言うと俺の手をひいて、ベッドに腰掛けた。

俺はフローリングにペタンと座り込んで彼の膝に挟まれる。

ベルトを 外し、ずらし た 下着。

 


ピチャ

 


舌先を先端の割れ目にゆっくり押し付けた。

「ハァ…」

快楽を感じる吐息に俺は目を閉じて口内に一気に含んだ。

グッと両の手の平が俺の髪にもぐってくる。

その手を撫でるように動かしながら俺がしているのを見ている。

ジッと…何か言いたげに。

 


「気持ちいい?」

「いいよ…」

そういうと大野さんはゆっくり俺をベッドに引き上げた。

仰向けに寝転んで、あたまの下で腕を組む。俺は足元からハイハイで上がりまた同じように奉仕した。

 


どれくらいか時間が経って大野さんが上半身を起こす。

俺の口に吐き出した迸りを確かめるみたいに唇を指でなぞってきた。

ゴクンと喉を鳴らして飲み込むと、ふにゃりと笑って頬を撫でてくれる。

「今日もめた客と…シタのか?」

俺は口元を手の甲でゴシっと拭いながら頭を左右に振った。

「まさか…あの人は知らない人ですよ。」

「じゃあ一体どこのだ」

「大野さんっ…変な事…聞かないでよ…誰だって良いじゃない…俺達…付き合ってるわけじゃっ…っ!!?ちょっ…」

急にベッドに押し倒され、グイと手首を強く抑えつけられる。

「付き合ってねぇよ…だけど…俺が拾ったんだ…俺のもんに違いない」

フニャっと幼い顔で笑うくせに、目の奥は俺を完全に睨み付けていた。

「…そうだね…俺は、大野さんの物だよ…」

真っ直ぐ見つめて呟いた。

手首を持つ手が緩んだから、俺は大野さんの首に両腕を絡め引き寄せる。

「勝手に…勝手に行くなよぉ…」

首筋に埋まる大野さんが弱音を吐く。

俺の知らない大野さんに身体が軽く強張った。

空笑い…

緊張…

 


「どこ…行くっつーんだよ。バカだなぁ…」

後頭部に手を添えてゆっくり呟いた。

 


大野さんが両手を顔の横について俺を見下ろす。

ゆっくりキスをして、だんだん激しくなる。

「…ッン…ふぅ…ンゥッ…」

 


息が

 


上がる。

 

 

 

いつもと違う…

「大野さんっ!」

「最後まで…やらせろよ」

 


泣きそうな顔をしないでよ!

あんたには

裏切られたくないっ!

あんたにはっ!

俺は抱えあげられた足に強く力が入るのを感じていた。

だけど…

パッと身体に触れていた手も身体も感じなくなる。

「…ニノ…悪りぃ、悪ふざけ…過ぎちまったな。」

ギュッと閉じた瞳をゆっくり開くと、身体を離してサイドテーブルに置かれたタバコに火を付けた大野さんがいた。

 


ずり下ろされていたズボンを軽く引き上げる。

「…俺も…」

「ん?」

「俺も…一本ちょーだい…」

コテンと首を傾げて上目遣いする。

大野さんは手を伸ばして俺の髪をグシャグシャと撫でた。

まるで猫の頭を撫でるようにして。

気づいたら、大きな窓ガラスに、静かに雨が打ちつけていた。

差し出されたタバコに火を付けてもらう。

ボンヤリとした視界の先で、ユラユラ揺れるライターの火が愛おしかった。

大野さんがふざけた調子で歌いだす。

携帯で鳴らされた洋楽は有名な曲だった。

俺は、ベッドに腰掛ける大野さんの背中に頰を寄せる。

「ふふ、英語でたらめじゃん」

「良いだろぉ…好きなんだよ、この曲」

紫煙は窓ガラスの雨と重なる。

登る煙りと流れ落ちる雨粒。

昇ったおまえと…落ちる俺みたいに見えた。

 


相葉雅紀

 


大野さんにさえ身体を開けない俺が、どうしてあんな事を許したんだろう。

 


高い体温に、優しい口づけ。

少し乱暴な突き上げに…翻弄される身体が堪らなかった。

 


抱いてくれたら良かった。

大野さんが、無理矢理にも抱いてくれたら

 


そうしたら、この身体の奥が疼く感覚は、簡単に抑え込めたかも知れないのに…。

 


雅紀…愛してる。

おまえが愛しくて、俺は今、間違いを犯しそうだよ。

雅紀…愛してる。

おまえが生きて帰って来たみたいに

俺の心は

 


あの頃みたいに…

凄く苦しい。