時雨月の音 24
24
陽が沈んで、風が吹いて、景色が変わる。
髪が揺れて、頬を撫でて、身体の距離が縮まる。
交差した顔はゆっくり離れて、鼻先が触れ合う距離で止まる。
「和…」
あぁ…今その呼び方は、卑怯だよ。
俺はその声にもう一度名前を呼ばれるのを待っていたんだから。
俺は雅斗のパーカーの襟を掴んで引いた。
唇を貪るように重ねて、いつしか、綺麗なフェイスラインを両手で包み込むようにつかまえて引き寄せていた。
チュ…クチュ…
「んぅっ…はぁ…ン…」
雅紀でも相葉さんでもないキスは罪悪感と、甘美な甘さを連れてくる。
雅斗はキスが上手かった。
勝手に声がいくらでも漏れてしまうような、溶ける感覚だ。
「こんな場所じゃなきゃ抱いてたな」
雅斗が苦笑いしながら俺の前髪をクシャッとかきあげた。
その呟きが何だか可愛くて、乱暴で傲慢な性格を急に隠すそのワザは反則だと思った。
俯くと額をすり寄せてくる。
「真っ暗だな…怖くない?」
「…うん大丈夫」
「寒い?」
俺は小さく首を左右に振る。
「…雅斗…俺…」
「…戻ろうぜ。風邪引かせたら兄貴にドヤされるわ」
雅斗は俺の額にキスをして立ち上がった。
パーカーのフードを被ってポケットに両手を突っ込んで歩き出す姿が…妙に寂しそうに見えて…。
俺みたいに見えて、後ろから抱きついてしまった。自分が言いかけてやめた言葉は、自分でも何を言い出すつもりだったのか分からなかった。
雅斗は思ってたより…ずっと…寂しい人。
そんな気がしていた。
キスが…熱い温もりで優しく感じたせい。
振り向いた雅斗は今にも泣きそうな顔をしていた。
「なんだよ…何でそんな泣きそうな顔してんだよっ…」
俺は雅斗をギュッと抱きしめた。
そしたら、いつもみたいな軽い調子で、パーカーのポケットに手を入れたまま俺を包み込んだ。
「くふふ…なぁにぃ〜。寂しい寂しい子猫ちゃん。」
雅斗のパーカーに包まれるようにして胸元に耳が当たる。ギュッとされると、雅斗の心音は優しく鳴り響いて、俺の呼吸を乱した。
抱きしめられたまま、雅斗がゆっくり屈む。
大きめのフードが俺の顔まで隠すようにして、2人はそこでキスをした。
自分がどれくらいいい加減な人間か
良く…知っている。
"雅斗が泣きそうだったから…"
自分にできる全力の言い訳…
それを誰に言いたいのか、用意したくせに見当もつかなかった。
俺を拾った大野さん?
雅紀にそっくりな相葉さん?
それとも…どうにかなる覚悟なんてしていないのにこうしてる…雅斗自身に?
いい加減なんだよ…本当に。
だから、大切な物は指の隙間からボロボロ溢れて
最後にはなんにも残んない。
雅紀…おまえの存在が、そうだったみたいに。