時雨月の音 10
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雅紀…雅斗…双子…
仕事が済んだ明け方。結局あれから、頭は回らないままだった。
雅紀にソックリな奴がいっぺんに2人も現れて正直パニックもいいところだ。
あんなに何年も見たかった笑顔がすぐ側にあった。あんなに欲しかった温もりのある腕がすぐ…側に。
だけど、あの2人は雅紀じゃない…
雅紀じゃないのに、怖いくらいそっくりで胸が苦しい。
相葉さんは雅紀と同じ言葉を使うし…
雅斗は同じ顔をしているくせに…同じ声をしてるくせに…うんと嫌な奴だ。
雅紀が居なくなって…ずっと眠れなかった。
病院で処方された睡眠薬は日を追うごとに強くなるばかりで、いつの間にか、いつ寝たのか分からないような生活。薬が俺を楽にしているとは到底思えなかった。
大野さんが早いなって言ったのだって…いつも薬が効いたままの重い身体を起こして動くから遅刻ギリギリになる。それを知っているから…あの人は俺を叱らない。
フラフラ白んだ空の下を歩く俺の手を誰かが引いた。
「大野さん!…どうしたの?」
「おまえ、今日うち来い…なんかやらかしたんだろ。潤から聞いた。オーナー命令な」
俺は俯いてから、ヘラッと苦笑いして
「潤くんおしゃべりだなぁ…」
呟いたら、頭を軽くはたかれた。
「いってぇ…乱暴な人はモテませんよ!」
「最近ソロキャンプにハマっててさ、今モテると困るんだわ。ほら、なんせソロキャンプって、ソロだから!なっ!」
バンと俺の背中を叩いて歩き出す。
大野さんちに行くのは
随分久しぶりだった。