時雨月の音 5
5
Masaki Rain
妙に早起きだった。
最近年を気にするせいか健康志向で保守的だ。
こうやって爺さんになっていくのかな…なんて自嘲して家を出た。
黒い大きな傘を開いてゴミ捨てに向かう。
一人暮らしだと大したゴミも出ないもんだと手に下げた袋をチョイと引き上げて量の少なさを確認した。
空は重たい色をした雲を垂れ込めてシトシト雨をしきりに降らす。
ゴミステーションには既に山になった袋が溢れていた。
ネットを持ち上げて小さなゴミ袋を放り込む。
あっという間に用事が済んでしまった。
その後…自分からあんな風に事が運ぶなんて…思っても無かった。
一時、仕事で失敗出来ないプロジェクトに噛んだ事があって、ルーティンワークの一環に朝の参拝を組み込んだ事があった。
暫く行ってないなぁ…なんて思ったのが始まりで、神社に参ってそのまま遠回りして散歩しながら帰宅する途中だった。
神社に行った事、遠回りをした事…。
全てが繋がって、俺は雨の中、彼を見つけた。
ゴミステーションの前に傘もささず立ち尽くす姿は百合の花みたいに頭を垂れて、黒い髪の先から滴を垂らしていた。
細い顎を伝う雨水が妙に色っぽくて、後ろから傘をさしかけた。
思い詰めたような青白い顔がゆっくりこっちを向いて俺の名前を呼んだ。
聞き間違いかも知れない。そう思ったんだけど、彼は俺を見て酷く驚いていた。
マンションまで傘をさしかけて送り届けて立ち去ろうとしたら、引き留められて
キスをした。
悪い気はしなかった。
綺麗で儚げな印象、S E xが上手そうだな…なんて、一瞬いか がわしい妄想が頭を過った。
男の経験がないわけじゃなかった俺は 誘われるが ままに部屋へ上がり込む。
今思えば…
朝から何の魔法にかかっていたんだろうか。
意地悪をしたくなるような頼りない華奢な肩。
そんなつもりは無かったなんて嘘は置いといて…。
お互いに身体を求めているのを感じ取っていた。
ローベッド は固いマットレスで、スプリングが無い分、彼を存分に俺のリズムで 貫いた。
良い声で 鳴く 身体は 驚くほどに白く滑らかで、やっぱり思った通り 感度 は 抜群 だった。
それから、まるでクセになるみたいな泣きそうな表情。
苦しいのか、悲しいのか、それとも良くて、満たされて、満足なのか…
儚いって表現がぴったりな悩ましげなその表情は俺を熱くさせた。
打ち付け てやるたびに、昔から俺に 抱か れて いるみたいに名前を呟いてくる。
最初のうちは相葉さん…
もう、ダラダラ と精 を垂れ流し ている頃には、俺のことを…うわ言のように雅紀と呼んだ。何かを勘違いしそうになるような 身体 を求める 哀願。
枕元に倒れた古びたクマのぬいぐるみが、まるで生きているみたいな鈍い輝きで俺を睨んでいた。
誰かに覗かれているような感覚は
上等な S e Xの 興奮剤。
行きずりの関係…
それなのに俺は地雷を踏む事になる。
突然飛んできた枕が胸元に当たり、バフッと膝に落ちる。
彼は酷くヒステリックに怒鳴ると俺を部屋から追い出した。
マンションを出て、扉の横のネームプレートを見上げた。
名前を聞きそびれた寂しい子猫の名前…。
にの…みや…。
一体…何が気に触ったんだろう…
あんな寂しそうな顔をしておいて。
段ボールに捨てられたびしょ濡れの子猫。
寂しそうに鳴いていた。
寂しそうな
顔をして…。