時雨月の音 33
33
Masaki Rain
小さな本棚の上の写真立て。
和の肩を抱いて、幸せそうに笑う青年。
心臓が口から出そう。
いや、全身の毛が逆立つ様な…
違う…身体の血がグツグツ沸騰していく様な
そのどれとも表現し難い驚きだった。
写真には……
俺が写ってる。
いや、俺じゃない。なら、雅斗しか…違う…雅斗でもない。
何だよコレ…
グシャっと髪に当てた手に汗で湿った髪が現実だと警笛を鳴らす。
さっき、俺は間違いなくこの部屋で和を抱いた。
これは現実だ。
この部屋にあるこの写真だって…本物なんだ。
ギシっと背後で物音がする。
慌てて振り返ると、腹に巻き散らした白濁を指先に絡めながら苦笑いする和がいた。
「…写真?フフ…驚いた?」
俯き指先を弄び呟いた和。
『あ…あの…コレ…』
どんな顔が正解か分からない。
ただ、困惑としか捉えて貰えないだろう表情が張り付いて離れなかった。
「兄貴だよ…」
俺は和の言葉に息が止まる。
『兄…き?』
「二宮雅紀…19歳の冬…弟の和也に振られて、飛び出した雨の日、車にはねられて即死しましたとさ…ダッセェだろ?」
二宮…雅紀…
弟に
振られて…車?事故?即死…
あぁ…あぁ…そうか…だからだ。
だから和は初めて会った時から、うわ言の様に俺の名前を呼んだんだ…
即死…だから…だからあんなに寂しい顔をして…
待ってくれ…
待ってくれ
落ち着け
心臓を打つ速さは、全力疾走後より忙しく痛みを伴う。
『俺と付き合えないのは…』
和は諦めたみたいに肩を竦める。
「相葉さん…俺はね…あんたを…」
『分かった…それ以上…言わないで。俺……帰るよ』
「うん……さようなら。」
脱ぎ散らかした服を拾い集めて、俺はモノクロの部屋を出た。
さようなら
色のない部屋は、初めて会ったあの日の彼の色だった。
さようなら
冷たくて暗い…
和は…色を無くしたまま生きてる…。
さようなら…
あんな言葉を…使わせた俺は
弱虫だ。