ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

虹 23

23

ジャケットはソファーにだらしなくぶら下がっている。

スラックスはフローリング。

靴下や下着は何とかバスルームで、入ったシャワー後に裸のままベッドで毛布に包まって眠っていた。

耳につけたイヤホンがガタン、バタンと音を立てるから、その物音で目が覚めた。

ゆっくりベッド横のサイドテーブルからノートパソコンをシーツの上に無造作に置いた。

砂嵐のように乱れ気味の画面に相葉さんがネクタイを緩める姿が映る。

朝帰りなんだね…

あんな女と…

俺は親指の爪を噛もうとしたところで我に返った。

昨日、ホテルから帰って濡れていた包帯を解いたんだった。

亀裂の入った爪は急に痛み出す。

ジンジンと  痛み出す。

あなたを想って 疼き出す。

画面の相葉さんは上半身裸のまま、キッチンから持ってきたグラスの水をソファーに座って飲んでる。

割れた腹筋が相変わらず綺麗で、いつまでだって眺めていられた。

愛してる

伝えたい…

愛してるよ…とっても…好きなんだ。

俺は思い出したようにして、ベッドから飛び降りた。

リビングに放り投げたままの鞄を勢いよく開いて中を弄る。

ガサガサと音を立てて、クリアファイルを胸に抱いた。

はぁ…と深い息を長く吐き出す。

冷たいファイルが素肌にピタッと張り付いてくる。

ゆっくり引き離し両手で天井に向かって掲げて透かせた。

中に薄っすら鍵の形。昨日、闇の仕事人に紹介してもらった今までで一番ヤバそうな奴らに頼んだ成果。

あぁ…夢じゃない!!

相葉さんの…

相葉さんの家の…鍵。

俺は中に手を入れて鍵を取り出した。

通い妻って言うのかな

へへ…

ご飯とか作っちゃうと…

悪戯がバレちゃうな。

夢が、醒めないように…

慎重に

あなたに近づくからね。

鍵に濃厚なキスをして、昨日散々犯された後ろを自分で慰めた。

ポタポタと水のような迸りがフローリングを汚す。

鍵を持った手がその水溜りに沈んだ。

「ハァッ…ハァッ…あ~ぁ…ネッチャネチャ」

鍵についた自分の迸りを眺めて苦笑いした。

頭がおかしい?

そんな事は

随分前から気づいてる。

ネチャネチャと鍵を手の中でこねながら寝室のベッドに置き去りにしたパソコンを見に戻った。

ベッドに腰を下ろすと、相葉さんは電話で誰かと喋っていた。

慌ててイヤホンをする。

バリバリと雑音はあるものの割りと鮮明に声がした。

『分かった。じゃあ、今から行くよ。うん。うん。はーい。夕方までそっちでいいよ。暇でしょ?うん。じゃ!』

携帯を置いた彼はサッサと着替えを済ませて部屋を出て行った。

………?

俺は精液まみれの鍵を見下ろし、首を傾げた。

「夕方まで…帰らないんだ…」

一人呟いて俺はすぐに服を着替えた。

鍵を洗面台で念入りに洗い流し、掴んだタオルでフローリングの汚れを始末すると、絡む足を追い立てるように前へ進めさせた。