虹 24
24
チャンスだよ。
休日に、相葉さんが居ない部屋を堪能出来る。
以前、家に入れて貰ったから細かい場所も映像に映らない所までバッチリ把握してある。
心臓が口から流れ出てしまうんじゃないかとさえ思った。
ドクンドクンと色んな血管が破裂しそうに騒いだ。
どうやって辿り着いたのか、全く覚えていなかった。タクシー?電車?走ったのか?
ただ…
目の前に、相葉さんの家の玄関扉がある。
カラカラに乾く喉。
ゆっくり鍵を差し込んだ。
鍵は鍵穴に沿って綺麗にハマる。
ガチャ…ン
鍵は開いた。
ここからはもう…引き返せない。
一歩踏み込むと、相葉さんの香水の香りが漂っていて、キュンと胸をしめつけた。
「相葉さん…」
居るはずもないのに名前を呼んでしまう。
廊下を歩き、リビングに入りコンセントタップを見下ろしニヤリと微笑む。
相葉さんがソファーで飲んでいたグラスがローテーブルに置かれたままだった。
さっきまで居たほのかな温もりを辿りたくてグラスを握りしめた。
さっき相葉さんが座っていたソファーに頰を寝かす。
それから、ゆっくり寝室に移動した。
脱ぎ散らかしたスーツがベッドに無造作に置かれていた。
俺はそのシャツやネクタイ、ジャケットを引き寄せ胸元に抱きながらベッドに寝転ぶ。
匂いを嗅いで目を閉じた。
思い出していた。
あなたを口に含んだ事…。
願いが叶うなら…もう一度。
「ハァ…ヤッバイ…イキそう…」
触ってもないのに…勃ち上がった熱が暴走する。
向日葵の笑顔。
長く綺麗な指。
耳に残る優しい声。
「ウッ!!……ックぅ…ハァ、ハァ、あ~ぁ…出ちゃった…」
俺は股間を押さえて起き上がる。
それから、スーツなんかをまた無造作にベッドへ投げ捨て、寝室を出た。
リビングへ戻ると、携帯の着信音が思ったより大きく鳴り響き慌てた。
ポケットから出した携帯を落としそうになりながら見ると、相手は松本さんからだった。
暫く眺めて、電話に出る。
「も、もしもし?」
「あ、ニノ?今日何してる?飯でも行かない?」
軽い誘いに耳を傾けながら、もう一度相葉さんが使ったグラスを手にコップのフチを舌先でなぞった。
「…いいよ。何時?」
「ん~、そうだなぁ、じゃ、11時半くらいはどう?」
ピチャ
水音を鳴らしコップに口づける。
「ニノ?…何…してる?」
俺はクスっと笑って呟いた。
「何も…してないよ?」
「そっ、そっか、何か俺、昨日から変なのかな!ハハッすげぇエロいキスしてるみたいな音が聞こえちゃった気がして!電話中だもんな!そんなわけねぇかっ!」
「そんなわけないよ。ちょっと……遊びすぎなんじゃない?フフ」
おかしくて仕方なかった。
おまえの同期の部屋に入り込んで、寝室で達してしまったり、グラスに口づけたりしてるなんて…一体誰が想像するもんか。
俺だって…
本当は自分が怖い。
壊れていく自分が、怖い。
何も得られないなら…せめて側にいさせて。
一番近くで…。
それだけなのに…こんなにも狂気じみていて…怖い。
「最近はそんなに遊んでないってば。…昨日も言っただろ。考えといてくれよな。付き合おうって言ったこと」
俺はゆっくりグラスをテーブルに戻して、悪い事を考えていた。
相葉さんが知ったらどうなるだろう。
松本さんと寝たことや、付き合おうと言われた事。
それを知ったらどうなっちゃうんだろう…。
何かが変わる?
崩れる?
壊れてしまう?
俺のこんな馬鹿げた茶番も
終わってしまうだろうか。