ninon's BOOK

オリジナルBL小説のブログです。

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

時雨月の音 24

24 陽が沈んで、風が吹いて、景色が変わる。 髪が揺れて、頬を撫でて、身体の距離が縮まる。 交差した顔はゆっくり離れて、鼻先が触れ合う距離で止まる。 「和…」 あぁ…今その呼び方は、卑怯だよ。 俺はその声にもう一度名前を呼ばれるのを待っていたんだか…

時雨月の音 23

23 コンビニの袋は何故か雅斗がぶら下げていた。 雨は止んでいて、さしてきた傘が邪魔になる。 雅斗の髪…少し濡れてたな。 そんな雅斗は、俺がどこへ帰るとも知れないのに、ズンズン前を歩いて行ってしまう。 偶然出会っただけなのに、なんでこんな事になっ…

時雨月の音 22

22 さよならと怒鳴りつけてやったのは雅斗になんだけど…雅紀の顔がよぎって、相葉さんの顔が苦笑いをする。 くたびれたクマのぬいぐるみはもう おまえの匂いなんてしない。 それなのに…あの頃はくすまず、鮮明で、心に優しくて、最悪だ。 雅紀を許せない。 …

時雨月の音 21

21 マンションに戻って来た。 やっぱり大野さんの家より、落ち着いている自分が居た。 リビングの隅に置かれた写真立てを手にする。 俺の肩を抱いて…クシャッと笑う笑顔。 どうして…同じ姿で現れたの? どうして? 兄弟じゃなくなれば良かったの? どうして…

時雨月の音20

20 Masaki Rain 付き合っているわけじゃない。 告白した訳でもない。 身体の関係から始まって…出会えばキスをせがんでくる。 可愛くて、儚くて、寂しい人。 名刺を渡すのが、精一杯だった。 あの不安定な状態は…何が関係しているのか…。気になる事はそれこそ…

時雨月の音19

19 明け方までの勤務がこんなに長く感じたのは初めてだった。 いつもならただ、ボンヤリしていれば朝は来た。 ボンヤリ…出来ずにグズグズしていた。 片付けをしながら潤くんが呟いた。 「ニノ…あの人と付き合うの?」 「え?…ぁ…そんな事…考えてなかった」 …

時雨月の音 18

18 『じゃ、そろそろ帰るね。』 四杯目を飲み干して相葉さんは席を立った。 『自惚じゃないと良いんだけど…そんな顔しないで。』 俺は目が潤むのを感じて唇を噛み締めていた。 スーツのポケットから名刺を取り出した相葉さんは、俺にそれを手渡した。 『1番…

時雨月の音17

17 潤くんは1人呑みのお客さんに言った。 「今日、飲み過ぎじゃない?翔さん酔っぱらったらずっと髪かきあげるよね」 「ハハ、よく見てんなぁ。確かにぃ…今日はちょっと酔ったかも」 潤くんはウイスキーグラスに残るお酒を下げた。 「俺の奢りでいいからもう…

時雨月の音 16

16 「なぁ…アレ…昨日のビンタの奴だろ?」 潤くんが肘で俺を突いてくる。 俺はグラスを磨きながら 「ふふ…別人。」 と呟くと、潤くんはまん丸に開いた目で驚いて見せた。 「うっそ!えぇ?!嘘だぁ!」 「双子なんだよ。そっくりだよね…昨日のは弟。今日のは…

時雨月の音15

15 Masaki Rain 朝、ベッドで目を覚ます。 隣りには雅斗がスヤスヤ寝息をたてていた。 キングサイズのベッドで俺に背を向けて眠る雅斗の髪を撫でた。 もう良い年なのにちっとも成長しない自分達に呆れながらだ。 俺たちは昔、酷い虐待を受けて育った。 結局…

時雨月の音 14

14 大野さんと一緒にマンションを出た。 日が暮れた秋の入り口… ひぐらしがまだ鳴いている。 「じゃ、俺はこっちだから。ちゃんと食えよ」 「分かってますよ。じゃ」 軽く手を上げて別れた。 だんだんひぐらしの鳴き声も聞こえない喧騒に埋もれる。 駅の裏は…